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日本庭園

​尼歌集

​潮江公園バラ園​

​第51回 2023/1/10
タコ公園と呼ばれる潮江公園は、JR尼崎駅から北へ徒歩十分。公園の西側にバラ園があり、​春と秋に約七十種類千本のバラが栽培されている。世界バラ会議で選出された殿堂入りのバラ、世界の王族に由来するバラなどを見ることができる。
あっさんが高校時代によく訪れた潮江公園を思い出しながら詠った短歌。若い頃はお金を使わず、一緒にバラや星を見たりするだけで、ロマンチックに楽しめるもの。潮江公園で待つ彼に「お待たせ」と小躍りしながら彼女が駆け寄る様を詠む。「シた」「ホしを」「エにし」で「潮江」を、「アうたび」「マわる」で「尼」の折句となっている。さらに、句の最後の文字を繋げると「バラとタコ」になっている。

下待てば 星を見がてら 縁ぞと​

      会う度に又 回る我が吾子

​松本五差路​

​第52回 2023/1/25
松本五差路は次屋交差点の南にあり、近松線と園田橋線、神崎橋へ抜ける道、など五つの道が交差する珍しい交差点。
「松本」の地名から昔あった松並木に想いを馳せ、あちらの方を見れば神崎川、こちらの方を見れば尼崎、そちらを見れば次屋など、色々な景色が脳裏に飛び込んでくる五差路で、周囲を眺め語らう情景を詠んだ歌。「松〜」「本〜」「五」「差〜」「路〜」で「松本五差路」の折句となっている。

松原の 本の眺めの 五筋より

​       差して語れる 路辺の人

​藻川​

​第53回 2023/2/10
猪名川が伊丹の神津大橋付近で分岐し、田能〜食満〜園田を流れる間を藻川と呼ぶ。藻川は戸ノ内付近でまた猪名川と合流し、神崎川として大阪湾に流れ込む。
下流にしか流れることのない川を見ていると、どんなに昔を懐かしんでも、川の流れのように戻ることはできず、どんなに良い天気だとしても憂いは晴れないという心情を詠む。藻川の青い水面を見ていると、涙の川にも見えてくるという切なさを詠んだ短歌。
「モどる日ハ」「カわの流れカ」「ハるる日モ」初句から三句の最初の文字で「藻川」、最後の文字を三句目から読んで「藻川」、四句は初めに「藻川」、五句の最後から三文字を逆さに読んで「藻川」と、四つの藻川を折り込んでいる。

戻る日は 川の流れか 晴るる日も

​        藻川の青は 涙川かも​

​金楽寺町​

​第54回 2023/2/25
​JR尼崎駅南側にある金楽寺町。明治四五年、福知山線の路線上の尼崎港線に金楽寺駅が設置された。昭和五六年に廃駅となり、現在は閑静な住宅街である。金楽寺町にある吉備彦神社の絵図に「錦楽寺」という文字が残されているのが金楽寺の名残だと言われる。吉備彦神社は、遣唐使として唐から色々なものを持ち帰った学者かつ政治家の吉備真備(きびのまきび)が主祭神。
あっさんが通学時に金楽寺町を自転車で駆け抜けていた思い出を詠んだ短歌。「キビし〜」「ノちの〜」「マなびや〜」「キこ〜」「ビびし〜」で「吉備真備」の折句となっている。

厳しさも 後の為とて​ 学舎に

      聞こゆる声の 美美しかる時

​小林書店​

​第55回 2023/3/10
今回は尼崎市立花町二丁目にある創業七一周年を迎えた「小林書店」を紹介。川上徹也さんの『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』という小説や、「まちの本屋」というドキュメンタリー映画の舞台にもなった小林書店。商店街の端にあって、辞書や正月雑誌を売り歩き、傘の販売も手がけるなどなど、実にユニークな本屋さんである。
 
商店街の端にある小林書店の前を、色んな人の人生が通り過ぎる。時には人と人とを繋ぐのも、道に面したお店の大切な役割だと小林さんは言う。
 
​街行く人の中の、二人。小林書店がその出会いの場となったことを想像して詠んだ。本棚にたくさんの物語を抱えた小林書店は、きっと街を行く二人の行く末も知っている。行く末を暖かく見守りながら、まちの本屋が今日も静かに佇んでいる情景を詠む。​「まちの本屋」の折句。

待つことを 誓う二人の 後の世の​

        本末を知る 屋根の軒先

​もすりん橋公園

​第56回 2023/3/25
加島と戸ノ内を結ぶ神崎川に架かる毛斯綸(もすりん)大橋のたもとにある公園。毛斯綸大橋の名は、大正の頃にあった毛斯綸(もすりん)紡織という工場の私設橋だったことに由来している。
​戸ノ内は、便利で見晴らしもよく、今に繋がる工場地域。もすりん橋のおかげで、近くなった戸ノ内と加島。当時の戸ノ内に思いを馳せて詠んだ短歌。遠き日を想いつつしみじみ臨む眺めを噛み締めながら、橋を渡る人々の心情を詠む。
句の最初の文字を繋げて「戸ノ内」の折句。句の最後の文字を繋げて「もすりんの橋」を表現。橋の歌なので、両端を意識。

遠き日も 臨み見渡す 薄明かり​

​      近く渡らむ もすりんの橋

​大庄武庫線

​第57回 2023/4/10
​尼崎の大庄地区と武庫地区を南北に結ぶ道路が大庄武庫線。西側には尼宝線、東側には道意線があるが、尼崎のみを走るのは大庄武庫線のみ。
大庄武庫線は阪急電車と交差するため、南北に分かれてしまっている。阪急電車が引っ切り無しに行き来する様と、南北に分かれている切り離された道の情景を詠んだ​都々逸。四句目は「切りは無し」と「切り離し」どちらでも成立する二つの意味を持つ。
大庄武庫線は、昔の地名にちなんで大庄友行線とも呼ばれていた。「友行」の折句となっている。

隣り合わせと​

戻れもせずに

行きて帰りて

​きりはなし

​横僧公園​

​第58回 2023/4/25
​尼崎の塚口町にある横僧公園は、普通の小さな公園。尼崎の北にある塚口町は伊丹との境にあり、閑静な住宅地となっている。聞きなれない横僧公園という名は、「塚口字横僧」という昔の地名に由来している。
新しいものができると、以前そこの何があったか忘れてしまうことは日常的に起きていて、今となっては誰に聞いてもわからないし、いくら調べてもわからないことも数多くある。
これから世の中が移り行き、今存在している我々も同じように新しいものにかき消されて忘れ去られていくのだろう、という心情を詠った切ない短歌。
「横僧」の折句となっている。

横僧の 声も聞こえぬ その先の​

       移り行く世も 束の間の夢

​広島風お好み焼き「ゆうか」​

​第59回 2023/5/10
​阪急武庫之荘駅から南へ徒歩五分ほどにある広島風お好み焼き「ゆうか」さんは、いろんな種類のお好み焼きや、一品料理もたくさん揃えていて、二人も何度もお世話になっている。気さくなマスターで常連さんが多く通うお店。
短歌
「今もなオ」「コノミをもヤキ」「ソバにある恋」で「お好み」と「焼きそば」を表現​。「夕影」の中に店名を。 
​都々逸
「ゆうか」の折句。素敵な料理で夢のような一夜を。
川柳
「ゆうか」の折句でストレートに。キャッチコピーとして。

湯気の先

旨さの届く

​かおりかな

夢か現か

浮世の恋を

語る今宵の

​ゆうかかな

夕影の​​ 武庫の河辺に 今もなお

​     この身をも焼き そばにある恋

​メンテナンスリンパサロン「mother」

​第60回 2023/5/25
三ノ宮中山手通​二丁目にあるメンテナンスリンパサロン「mother」さんは、尼崎武庫之荘にある広島風お好み焼き「ゆうか」さんの常連さん。シンジローとはゆうか仲間のマザーさんがCMのことを聞き、「うちのも作ってぇ!」と猛烈にアプローチがあったとのこと。尼崎にあるお店の常連さんだから…という、非常に自由な「尼にゆかりのある」の解釈で、今回の登場となった。
毎日忙しい日々を送る女性に心身ともに「リセットする時間と空間と確かな技術」を提供したい、というオーナーさんの思いから名付けられた店名。店内は優しい色合いの癒しの空間となっている。
「似〜」「通り〜」「手〜」「山〜」「中〜」を逆に読むとお店のある「中山手通二(丁目)」を表している。

似た人の 通りて母の 手を思い​

​       山の便りの 中の優しさ

​第60回 2023/5/25
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